
不動産の仕事をしていると、たくさんのマンション売却に立ち会います。
「この価格では少し厳しいですね」
お客様には、そんなことも冷静にお伝えしてきました。
周辺相場を調べて、現在販売中の物件を見て、過去の成約事例を見る。
このマンションなら、だいたいこのくらい。
「売りたい価格」と「売れる価格」は違う。
そんなことは、嫌というほど分かっていたはずでした。
ところが、いざ自分のマンションを売るとなると話は別です。
やっぱり、少しでも高く売りたい!
「この価格では難しい」
頭では分かっています。
分かっているのに、
「でも、市場に出してみなければ分からないじゃないか」
そう考えてしまうんです。
もしかしたら、この部屋をものすごく気に入ってくれる人がいるかもしれない。
この眺望なら。
この間取りなら。
この立地なら。
多少高くても「ここがいい」と言ってくれる人がいるんじゃないか。
普段ならお客様に、
「お気持ちは分かります。ただ、買主様は他の物件とも比較していますから」
なんて説明する側です。
それなのに、自分が売主になった途端、完全に同じことを考えていました。
そして私は、強気の価格で売り出します。
結果――
1か月。
2か月。
3か月。
お問い合わせもほとんどありません。
それでも最初のうちは、
「まだタイミングじゃない」
「もう少し待てば」
と思っています。
ところが、時間が経つにつれて焦り始めます。
ここから不動産屋の悪いところが出ました。
知識がある分、いろいろやり始めるんです。
価格を少し下げてみる。
反応なし。
販売図面を変えてみる。
反応なし。
よし!それなら全部やる!
写真を撮り直して、
コメントを書き直して、
掲載する写真の順番まで変えて、
少しでも広く見せようと物を捨てて、
生活感をなくそうと、物を実家へ移して。
でも、反応なし、、
また価格を触る。
「下げすぎたかな」と思って、今度は上げてみる。
また販売図面を作り直す。
とにかく、策を練る、練る。
しかし、市場は実に冷静。
お問い合わせは、微動だにしない。
無風です。
気がつけば、
8か月が経っていました。
今振り返れば、売れなかった理由は分かります。
というより、当時だって不動産屋としては分かっていました。
正確に言えば、
「その価格を払ってまで、この部屋を選ぶ理由が買主様になかった」
ということです。
不動産の価格は、売主様が決めることはできます。
1億円と付けようが、2億円と付けようが自由です。
でも、その価格で買うかどうかを決めるのは買主様です。
当たり前の話です。
普段は分かっている。
でも、自分の家になると難しい。
長く住んだ家には思い入れがあります。
購入したときのこと。
住んでいたときのこと。
お金をかけたところ。
気に入っているところ。
売主には、その家に対するたくさんの「理由」があります。
一方、初めてその部屋を見る買主様に、その思い出はありません。
あるのは、
「この価格なら、こっちのマンションも買える」
「もう少し出せば、あの物件に届く」
「同じマンションで、以前このくらいで売れている」
という、とても現実的な比較です。
売主になった私は、その当たり前のことを受け入れるまでに8か月かかりました。
たくさんのお客様のご売却に携わらせていただいても、
自分のことになると冷静ではいられない。
この経験をしてから、
売主様から
「もう少し高く売れませんか」
「一度この価格で出してみたいです」
と言われたとき、言葉の聞こえ方が少し変わりました。
以前より、気持ちがよく分かります。
欲張っているわけではないんです。
大切な自分の家だから、少しでも高く評価してほしい。
ただ、それだけなんですよね。
今の私は、最初から「その価格では無理です」と切ってしまうのではなく、
売主様のご希望を伺ったうえで、
「では、この価格で売るためには何が必要なのか」
「どこまでなら試す価値があるのか」
「いつまで反応がなければ作戦を変えるのか」
そこまで一緒に考えることが大切だと思っています。
ただし、
私自身の自宅売却について言えば――
8か月は、さすがにやりすぎました。
疲労困憊でした、、
では、そんな8か月間ほぼ無風だったマンションを、
私は最終的にどうやって売ったのか。
そして、売れない期間に何を間違えていたのか。
次回は、そのあたりを書いてみたいと思います。
マンション売却体験記②へ続きます。
